
日本では、高齢化社会が進む中で、判断能力が低下した方々を支援するための制度として成年後見制度が設けられています。その中でも「法定後見制度」は、家庭裁判所が選任する後見人が本人を法的に支援する仕組みです。本記事では、法定後見人の役割や具体的な業務内容について解説します。
法定後見制度の概要
法定後見制度は、判断能力が不十分な方が日常生活や財産管理において不利益を被らないよう、法的に保護する制度です。対象となる方は、主に以下の3つのカテゴリーに分けられます。
- 後見 – 判断能力をほとんど有していない方(例:認知症が進行している場合)。
- 保佐 – 判断能力が著しく不十分な方(例:軽度の知的障害や初期の認知症)。
- 補助 – 判断能力が一部不足している方(例:意思決定に支援が必要な場合)。
家庭裁判所が本人の状況に応じて適切な類型を決定し、それに基づいて後見人、保佐人、または補助人が選任されます。
法定後見人の主な役割
法定後見人には、主に以下のような役割があります。
- 財産管理 – 本人の財産を保全し、適切に管理する責任があります。具体的には、銀行口座の管理、不動産の売却や賃貸借契約の締結、税金の支払いなどを行います。
- 身上監護 – 本人が安心して生活できるよう、日常生活のサポートを行います。施設への入居契約や医療機関での治療方針の決定、介護サービスの手配などが含まれます。
- 法律行為の代理 – 本人が自ら契約を締結することが難しい場合に、後見人が代理で行います。これには、遺産分割協議や保険契約の更新などが含まれます。
- 家庭裁判所への報告 – 後見人は、定期的に家庭裁判所に対して活動内容や財産管理状況を報告する義務があります。この報告は、透明性を確保し、本人の利益が適切に守られていることを確認するためのものです。
法定後見人の選任プロセス
法定後見人が選任されるまでの流れは以下の通りです。
- 申立て – 本人の配偶者や親族、または市区町村の福祉担当者が家庭裁判所に対して申立てを行います。
- 調査と審理 – 家庭裁判所が本人の状況を調査し、医師の診断書や関係者の意見をもとに審理を行います。
- 後見人の選任 – 家庭裁判所が適任者を選任します。通常、本人の親族が選ばれることが多いですが、場合によっては弁護士や司法書士などの専門職が選任されることもあります。
法定後見人としての責任と注意点
法定後見人には、以下のような責任と注意点があります。
- 利益相反の回避 – 本人の利益を最優先に考え、自らの利益や他人の利益のために行動してはなりません。
- 適切な財産管理 – 本人の財産を減らさないよう、計画的に管理する必要があります。また、不必要な出費や無駄遣いを防ぐことも重要です。
- 本人の意思の尊重 – 本人が可能な限り自分の意思で物事を決められるよう支援することが求められます。そのため、本人の希望や意見を尊重しながら業務を遂行します。
- 定期的な報告 – 家庭裁判所への報告を怠らないこと。報告が不十分であったり不正が発覚した場合、後見人の解任や法的措置が取られる可能性があります。
専門職後見人の活用に関する注意点
家庭裁判所が選任する後見人の中には、弁護士や司法書士、社会福祉士、行政書士といった専門職が含まれることがあります。これらの専門職後見人は、特に財産が多い場合や家族間で意見の対立がある場合に選ばれることが多いです。専門職後見人を選任する際には、その専門性や実績をしっかりと確認し、信頼できる人物を選ぶことが重要です。また、後見業務にかかる費用についても事前に家庭裁判所や専門機関に相談することで、不安を軽減することができます。
まとめ
法定後見人は、判断能力が低下した方々の生活を支える重要な役割を果たします。財産管理や身上監護、法律行為の代理など多岐にわたる業務を担い、本人の利益を守る責任があります。家庭裁判所の判断により選任される後見人には、高い信頼性と責任感が求められます。また、場合によっては専門職後見人の活用も選択肢に入れることで、より安心して制度を利用することができます。成年後見制度の利用を検討している方は、一人で悩まずに司法書士や弁護士、行政書士などの専門家に相談することをおすすめします。