人生の終盤を迎え、「自分の財産を誰に、どのように残すか」を考える方は少なくありません。その手段の一つが遺言書です。遺言書があれば、相続をめぐる家族間のトラブルを未然に防ぎ、残された人々に安心を与えることができます。
しかし、遺言書には法律上のルールが細かく定められており、正しく作成しなければ無効となってしまう恐れがあります。本記事では、遺言書を作成する際の注意点を、行政書士の視点から分かりやすく解説します。
遺言書の種類を理解する
遺言書にはいくつか種類がありますが、代表的なのは以下の3つです。
- 自筆証書遺言
全文を自分で手書きする遺言。費用がかからず手軽ですが、形式の不備により無効になるリスクがあります。現在は法務局で保管できる制度があるため、利用すれば紛失や改ざん防止につながります。 - 公正証書遺言
公証役場で公証人に作成してもらう方式。証人2人が必要ですが、形式不備の心配がなく、原本も公証役場に保管されるため最も安全性が高い方法です。 - 秘密証書遺言
内容を秘密にしたまま公証役場で証明してもらう方式。ただし利用は少なく、実務上は自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかを選ぶケースが大半です。
それぞれのメリット・デメリットを理解したうえで、自分に合った方式を選ぶことが重要です。
法的要件を守る
遺言書は民法で厳格に要件が定められています。たとえば自筆証書遺言の場合、以下の点に注意が必要です。
- 日付を「〇年〇月〇日」と特定して書く(「令和七年九月吉日」では無効になる可能性あり)
- 本人が全文を自筆する(ワープロや代筆は不可)
- 署名と捺印を忘れない
- 財産目録を添付する場合、目録はパソコンで作成してもよいが、各ページに署名・捺印が必要
些細なミスでも遺言全体が無効になることがあるため、細心の注意が求められます。
遺留分に配慮する
たとえ遺言書で「全財産を特定の人に相続させる」と記載しても、遺留分という制度があります。これは配偶者や子などの法定相続人に、最低限保障される取り分を認めた制度です。
例えば、長男に全財産を相続させると記載した場合でも、他の子どもや配偶者は遺留分を請求でき、トラブルになる可能性があります。遺留分を侵害しないよう配慮する、あるいはあえて遺留分に触れる内容を記載しておくことも必要です。
財産の特定を明確にする
「自宅を長男に相続させる」と記載した場合、自宅が複数あるとどれを指すのか不明確になります。
- 不動産は「所在・地番・地目」など登記簿通りに記載する
- 預貯金は「銀行名・支店名・口座番号」まで明確に記載する
- 株式や有価証券は銘柄や証券会社を特定する
曖昧な記載は後の解釈をめぐる争いにつながるため、具体的に記すことが大切です。
受遺者が先に亡くなるケースへの備え
遺言で「長女に自宅を相続させる」と書いていたとしても、長女が遺言者より先に亡くなってしまう場合があります。
この場合、原則としてその部分の遺言は効力を失い、遺言で指定されなかった財産として扱われます。結果として、他の相続人による遺産分割協議が必要になり、せっかく遺言を残したのにトラブルの原因となることもあります。
これを防ぐには、予備的遺言を記載する方法があります。
- 「長女が先に死亡した場合には、その子(孫)に相続させる」
- 「もし長女が受け取れない場合には、次女に相続させる」
といったように、代替の受遺者を定めておくのです。
特に高齢の受遺者や、健康状態に不安のある方を指定する場合は、この予備的遺言を活用しておくことが安心につながります。
家族へのメッセージも添える
遺言書は法律文書ですが、同時に人生の最後のメッセージでもあります。
「このように分けたのは、家族が仲良く暮らしてほしいからです」
「長年世話になった感謝を込めて、この財産を遺します」
といった付言事項を添えることで、残された家族が遺言の意図を理解しやすくなり、トラブル防止につながります。
定期的な見直しを行う
遺言書は一度作成すれば終わりではありません。
- 相続人の死亡や出生
- 財産の増減
- 相続税の改正
など、状況が変われば内容を見直す必要があります。最低でも数年に一度は確認し、必要に応じて書き直すことをおすすめします。
専門家に相談する
自筆証書遺言は手軽ですが、形式的な不備や遺留分への配慮不足から無効・紛争の原因となる例が多く見られます。
行政書士や弁護士、公証人といった専門家に相談すれば、
- 遺言書の方式や内容が有効か
- 相続人間でトラブルにならないか
- 節税効果を踏まえた分け方ができるか
といった点を事前に確認できます。安心して遺言を残すためには、専門家の関与が大きな助けとなります。
まとめ
遺言書を作成する上での注意点は次の通りです。
- 遺言書の種類を理解する
- 法的要件を守る
- 遺留分に配慮する
- 財産を明確に特定する
- 受遺者が先に亡くなるケースに備え、予備的遺言を記載する
- 家族へのメッセージを添える
- 定期的に見直す
- 専門家に相談する
遺言書は「自分の想いを伝える最後の手段」であると同時に、「家族を守るための法律文書」でもあります。しっかりと準備しておくことで、大切な家族の未来を安心につなぐことができるでしょう。





