相続が発生した際、多くの方が必要になる書類の一つが「遺産分割協議書」です。
遺産分割協議書は、相続人全員で「誰が」「どの財産を」「どのように」相続するかを決めた内容を正式な書面として残すものです。
しかし、作成方法を間違えると相続トラブル・登記不可・預金が引き出せないなど、深刻な問題につながることも少なくありません。
本記事では、遺産分割協議書を作成する際の重要な注意点を、行政書士の実務目線で分かりやすく解説します。
遺産分割協議書が必要になるケースとは?
以下のような場合、遺産分割協議書が必要になります。
- 不動産の名義変更(相続登記)
- 銀行預金の解約・名義変更
- 株式や投資信託の相続手続き
- 自動車の名義変更
遺言書がない場合はもちろん、遺言書があっても分割方法が曖昧な場合には協議書が必要になるケースもあります。
相続人全員の参加が絶対条件
遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ無効になります。
- 相続人の一人でも欠けた状態で作成された協議書は無効
- 認知された子、養子、前妻との子も相続人に含まれる可能性
- 行方不明者がいる場合は家庭裁判所の手続きが必要
「一部の家族だけで話し合って作成した」というケースは、後から協議無効を主張されるリスクが非常に高いため注意が必要です。
相続財産の記載漏れ・曖昧な表現に注意
遺産分割協議書には、相続財産を正確かつ具体的に記載しなければなりません。
不動産の場合
- 所在地
- 地番
- 地目
- 地積
- 建物の家屋番号
登記簿どおりに正確に記載しないと、相続登記ができません。
預貯金の場合
- 金融機関名
- 支店名
- 口座番号
- 口座名義
「〇〇銀行の預金一式」といった曖昧な表現はトラブルの元になります。
誰がどの財産を取得するのかを明確に記載する
遺産分割協議書には、以下のように取得者を明確に記載する必要があります。
「長男○○は、次の不動産を取得する。」
「次男○○は、〇〇銀行〇〇支店の普通預金〇〇号を取得する。」
「話し合いで分ける」「均等に分割する」といった表現は、実務上ほぼ使用できません。
相続分の割合と異なる分割も可能
遺産分割は、法定相続分と異なる分割も自由に決めることが可能です。
例えば、
- 長男がすべて取得し、次男は遺産を放棄
- 配偶者が多めに取得する
- 一部の財産だけを特定の相続人に集中させる
ただし、全員の合意が前提となるため、署名押印は必須です。
実印での押印と印鑑証明書の添付が必須
遺産分割協議書には、
- 相続人全員の署名
- 実印での押印
- 印鑑証明書の添付
が原則必要です。
認印やシャチハタでは、金融機関や法務局で受理されません。
未成年者や認知症の相続人がいる場合の注意点
以下に該当する場合、通常の遺産分割協議はできません。
- 未成年者が相続人に含まれる
- 認知症などで判断能力がない相続人がいる
この場合、
- 特別代理人の選任
- 成年後見人の選任
といった家庭裁判所での手続きが必要となり、勝手に署名させると無効になります。
相続放棄と遺産分割の混同に注意
「何もいらない=相続放棄」と誤解されがちですが、
- 相続放棄 → 家庭裁判所への申述が必要(3か月以内)
- 協議で何も取得しない → 相続放棄ではない
この違いを理解せずに進めると、借金まで相続してしまうリスクがあります。
税金・二次相続まで見据えて作成することが重要
遺産分割は、単に分ければ良いわけではありません。
- 相続税の節税
- 配偶者の生活保障
- 二次相続(次の相続)対策
まで考慮せずに分割すると、将来的に相続税が跳ね上がるケースも多く見られます。
専門家に依頼することで防げるトラブルが非常に多い
遺産分割協議書は、インターネット上のテンプレートでも作成は可能ですが、
- 相続人調査の漏れ
- 財産の記載不備
- 無効な協議書の作成
- 税務面の見落とし
など、一般の方が気づきにくい落とし穴が多く存在します。
行政書士に依頼することで、
- 戸籍調査
- 相続関係説明図の作成
- 遺産分割協議書の作成
- 金融機関提出用書類の作成
までワンストップで対応でき、相続人の負担を大幅に軽減できます。
まとめ
遺産分割協議書は、相続手続きの中でも特に重要な書類です。
一度作成してしまうと、簡単にはやり直しができないため、
- 相続人全員の合意
- 財産の正確な記載
- 実印・印鑑証明書
- 判断能力の有無の確認
- 税金や将来の相続まで考慮
これらのポイントを必ず押さえて作成することが重要です。
相続手続きでお困りの方は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。




