家族信託契約の信託不動産の赤字は損益通算できない?

家族信託は、認知症対策や相続対策として注目されている制度ですが、税務処理について注意すべき点がいくつかあります。特に、家族信託における信託不動産の赤字は、損益通算ができないケースがあることをご存じでしょうか?本記事では、家族信託の信託不動産に限定して、損益通算の可否について解説します。


損益通算とは?

まず、損益通算とは何かを確認しておきましょう。損益通算とは、ある所得区分で発生した赤字を他の所得区分の黒字と相殺することにより、全体の課税所得を減らす仕組みです。

例えば、不動産所得で発生した赤字を給与所得と相殺できれば、課税所得が減り、結果として所得税や住民税の負担が軽減されます。しかし、家族信託における信託不動産の場合、税法上のルールにより、この損益通算が制限されることがあります。


家族信託とは?

家族信託とは、家族内で財産の管理・承継を目的として設定される信託契約のことを指します。例えば、高齢の親が認知症になった際に資産凍結を防ぎ、子供が代わりに財産を管理できる仕組みを作るために活用されます。

信託契約を結ぶと、財産(不動産など)は受託者(家族)が管理・運用し、受益者(通常は親)が利益を受け取る形となります。


家族信託の信託不動産の赤字と損益通算の関係

通常の不動産所得であれば、損益通算が可能ですが、家族信託の信託不動産の場合は、原則として赤字を損益通算できません。その理由を詳しく見ていきましょう。

受益者課税の原則

家族信託では、信託財産から発生する所得は受益者の所得として直接課税される「受益者課税」の仕組みが適用されます。

この場合、信託財産から生じた不動産所得は、受益者の所得税計算の対象となります。しかしながら、信託不動産で赤字が発生した場合は、税法上の制約により、原則として給与所得や事業所得などの他の所得と損益通算することができません。

損益通算が制限される具体的なケース

家族信託の信託不動産の赤字が損益通算できない具体例として、以下のようなケースが考えられます。

  • 親が受益者となるケース:家族信託で親が受益者となり、不動産を信託した場合、信託不動産の赤字は他の所得と通算できません。
  • 受益者が死亡し、二次受益者へ引き継がれるケース:受益権が相続される場合でも、基本的な税務処理のルールは変わらず、損益通算はできません。
  • 不動産の維持費・修繕費による赤字:信託不動産の維持費や修繕費によって赤字になった場合でも、損益通算は認められません。

1つの信託契約内の不動産間では損益通算が可能

ただし、1つの信託契約内に複数の不動産がある場合、それらの不動産所得の間での損益通算は可能です。例えば、同じ信託契約のもとでA物件が黒字、B物件が赤字だった場合、その赤字はA物件の黒字と相殺することができます。ただし、信託契約をまたぐ形での損益通算や、他の所得との相殺は認められません。


家族信託の信託不動産の活用における注意点

家族信託を活用する際の税務処理について、以下の点に注意が必要です。

  1. 事前に税理士などの専門家に相談する
    • 家族信託を設定する前に、税務処理や損益通算の可否について確認しておくことが重要です。
  2. 節税目的での信託活用には慎重になる
    • 家族信託は主に資産管理・承継のための制度であり、節税対策として安易に導入すると期待通りの効果が得られない可能性があります。
  3. 信託財産の収益構造を正しく理解する
    • 信託不動産の収益はどのように計上されるのか、どの税目が適用されるのかをしっかり把握することが大切です。

まとめ

家族信託の信託不動産の赤字は、税法上のルールにより原則として損益通算が認められません。特に、「受益者課税」の考え方が適用されるため、通常の不動産投資とは異なる税務処理が求められます。ただし、1つの信託契約内に複数の不動産がある場合には、それらの間で損益通算が可能である点には注意が必要です。

家族信託を活用する際には、そのメリット・デメリットを正しく理解し、適切な税務処理を行うことが重要です。事前に専門家と相談し、適切な運用を心がけましょう。