退去時の「原状回復費用」とは?
アパートやマンションを退去するとき、多くの方が気になるのが「原状回復費用」です。
「壁紙が汚れている」「床にキズがある」「お風呂のカビが取れない」など、入居中に発生した損耗や汚れについて、どこまでを自分が負担するのか、トラブルになりやすいポイントでもあります。
まず、原状回復とは「入居時の状態に戻すこと」ではなく、「借主の故意・過失・不注意などによって生じた損耗を修繕すること」を指します。
つまり、経年劣化や通常の使用による損耗は、借主の負担ではありません。
国のガイドラインが基本となる
原状回復の考え方については、国土交通省が定めた「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が基準になります。
このガイドラインでは、貸主と借主の負担区分を明確にしています。
■借主が負担すべき主なケース
- タバコのヤニや臭いによるクロス汚れ
- ペットのひっかき傷や臭い
- 飲み物をこぼしてできたシミ
- 家具を引きずってできたフローリングの傷
- カビを放置して拡大した場合
- 釘・ネジ穴など通常の使い方を超える壁の損傷
■貸主が負担すべき主なケース
- 壁紙やフローリングの日焼けや色あせ
- 家電や設備の経年劣化
- 家具の設置による床のへこみ(通常の設置によるもの)
- エアコンの寿命による故障
- 水道設備や給湯器の経年劣化
このように、「誰の責任で生じた損耗か」が費用負担を分けるポイントになります。
敷金から差し引かれるケースが多い
賃貸契約時に預ける「敷金」は、退去時の原状回復費用や未払い家賃などがあれば、そこから差し引かれる形で清算されます。
もし、修繕費が敷金を上回る場合は、追加で支払いを求められることもあります。
ただし、敷金は「すべて戻らないもの」ではありません。
ガイドラインに沿った適正な計算がされれば、経年劣化分などを除いた差額が返金されるのが本来の形です。
費用の相場はどのくらい?
原状回復費用は、部屋の広さや損耗の程度によって異なりますが、一般的な相場として以下のような金額が目安です。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| 壁紙の張り替え(1面) | 5,000~10,000円 |
| フローリング補修(1箇所) | 5,000~20,000円 |
| 畳の表替え(1枚) | 5,000~10,000円 |
| エアコン清掃 | 5,000~20,000円 |
| ハウスクリーニング(1K~1LDK) | 20,000~40,000円 |
請求額が高額な場合は、どの部分の修繕が必要で、その原因が誰にあるのかを確認することが重要です。
トラブルを防ぐためのポイント
退去時の原状回復をめぐるトラブルは、全国的に多発しています。
消費生活センターにも、「高額な修繕費を請求された」「納得できない費用が引かれた」という相談が後を絶ちません。
以下のポイントを押さえておくと、トラブルを未然に防ぐことができます。
① 入居時の状態を写真で残しておく
入居直後に壁や床、設備の状態を写真で記録しておきましょう。
退去時に「この傷は入居時からあった」と証明できる重要な資料になります。
② 契約書・重要事項説明書を確認する
原状回復の範囲が契約書に明記されている場合があります。
中には「ハウスクリーニング費用は借主負担」といった特約が付いているケースもあるため、事前に確認しておくことが大切です。
ただし、借主に一方的に不利な特約(例えば経年劣化まで負担させるなど)は無効と判断される場合があります。
③ 見積書の明細を確認する
修繕費を請求された際には、どの部分の修繕にいくらかかるのかを明細で確認しましょう。
「一式○万円」という曖昧な請求はトラブルのもとです。
④ 納得できない場合は第三者機関へ相談
どうしても合意できない場合は、消費生活センターや不動産適正取引推進機構(RETIO)などに相談することができます。
また、弁護士や行政書士などの専門家に相談して、契約内容の確認や文書での対応をサポートしてもらうのも有効です。
特約がある場合の注意点
賃貸契約書には「原状回復に関する特約」が付いていることがあります。
たとえば次のようなものです。
- 「退去時のハウスクリーニング費用は借主負担とする」
- 「畳の表替え費用は借主が負担する」
- 「喫煙によるクロスの張り替えは全額借主負担」
これらの特約が有効と認められるためには、
① 特約内容が具体的であること
② 借主がその内容を理解していること
③ 通常損耗を超える合理的な内容であること
が条件となります。
したがって、「一律に全室張り替え費用を負担させる」といった一方的な特約は、無効となる可能性が高いのです。
退去立会い時のチェックポイント
退去の際には、貸主または管理会社と一緒に「立会い確認」が行われます。
このとき、次の点を意識しておきましょう。
- 修繕箇所を一緒に確認し、写真を撮っておく
- その場で費用を即決せず、見積書をもらってから判断する
- 契約書とガイドラインを照らし合わせる
感情的にならず、冷静に「客観的な証拠」と「ルール」に基づいて交渉することが大切です。
まとめ
退去時の原状回復費用は、「誰の責任で生じた損耗か」を正しく判断することが重要です。
経年劣化や通常使用による汚れは貸主負担となるのが原則であり、国土交通省のガイドラインに基づいた対応が基本です。
トラブルを防ぐには、入居時の記録・契約内容の確認・明細のチェックが欠かせません。
納得できない請求を受けた場合は、行政書士などの専門家に早めに相談しましょう。





