
ビジネスや日常生活において、「口約束」だけでは後々のトラブルにつながるケースが少なくありません。そのため、契約内容を明文化した「契約書」の作成が非常に重要です。しかし、契約書は単に文章を並べればよいというものではなく、目的や状況に応じた適切な内容と形式が求められます。
この記事では、契約書を作成する際の基本的なポイントと注意点について、行政書士の視点から解説します。
契約書作成の目的を明確にする
まず大切なのは、「契約書をなぜ作るのか」という目的を明確にすることです。目的によって盛り込むべき条項や形式が変わってきます。
例えば、
- 業務委託契約なら、業務の範囲や報酬、成果物の取り扱いなど
- 売買契約なら、商品や金額、引渡し時期、契約不適合責任など
- 賃貸借契約なら、物件の用途、賃料、原状回復の範囲など
といった具合に、契約の種類によって必要な条項は異なります。契約書の作成に入る前に、「誰と何を取り決めたいのか」を整理することが重要です。
契約書に必ず入れるべき基本事項
契約書には最低限、以下の基本的な情報を盛り込む必要があります。
- 契約当事者の氏名(名称)および住所
- 契約の目的および内容
- 契約の期間や期限
- 報酬や代金に関する取り決め
- 契約違反があった場合の対応(解除条件、損害賠償など)
- 準拠法・管轄裁判所の指定
これらを明記することで、トラブル発生時に「言った・言わない」の水掛け論を防ぎ、法律的な根拠に基づいた対応が可能となります。
契約書作成でありがちな落とし穴
契約書を作成する際には、次のような注意点にも気を配る必要があります。
曖昧な表現に要注意
「必要に応じて対応する」「善処する」などの曖昧な表現は、解釈の違いからトラブルの火種となります。なるべく具体的な表現を使い、「何を」「いつまでに」「どのように」行うのかを明確にしましょう。
テンプレートの使い回しは危険
インターネットで見つけたテンプレートをそのまま使うと、自社の実情に合わないまま契約してしまうリスクがあります。内容をよく吟味し、必要に応じて修正・加筆することが重要です。
契約書に反する実態
契約書をきちんと作成しても、実際の取引が契約書の内容と食い違っていると、いざというときに契約書の効力が弱まる可能性があります。契約書に基づいた取引を常に意識しましょう。
「署名・捺印」と「記名・押印」の違いについて
契約書を有効にするためには、当事者の意思が明確に示されていることが重要です。その意思表示の形式としてよく使われるのが「署名・捺印」または「記名・押印」です。
● 署名・捺印
- 署名とは、本人が自筆で氏名を書くことです。
- 捺印は、署名のそばに印鑑を押すことを指します。
署名は本人の手による記載であるため、意思表示の証拠としての力が非常に強く、捺印と併せて用いることで高い証明力を持ちます。
● 記名・押印
- 記名とは、印字・スタンプ・代筆などによって氏名を表示することです。
- 押印は記名のそばに印鑑を押す行為です。
記名は署名と異なり、自筆であるとは限らないため、単独では証拠力が弱まる可能性がありますが、押印とセットになることで法的効力が補完されます。法人契約などでは一般的にこの形式が使われます。
実務上の使い分け
- 重要な契約や個人間契約では「署名・捺印」が望ましいです。
- 法人間の定型的な契約では「記名・押印」が一般的です。
また、契約の重要性に応じて「記名+署名+押印」のように複数の形式を組み合わせることで、より強固な証拠を残すことができます。
押印の法的な位置づけについて
内閣府、法務省、経済産業省は、連名で「押印についてのQ&A(令和2年6月19日)」を公表しており、そこでは次のような見解が示されています。
「私法上、契約は当事者の意思の合致により、成立するものであり、書面の作成及びその書面への押印は、特段の定めがある場合を除き、必要な要件とはされていない。」
つまり、押印は契約の成立に必ずしも必要な要件ではなく、契約内容や状況に応じて適切な形式を選ぶことが求められます。ただし、実務上は証拠力や信頼性の観点から、押印が引き続き重視されている場面も多いため、バランスの取れた対応が求められます。
契約書の見直しと更新も大切
契約書は一度作ったら終わりではありません。業務内容の変更や法改正、経済状況の変化などに応じて、定期的な見直しや更新が必要です。特に長期契約の場合は、年に1度は見直しを行うことをおすすめします。
契約書作成にお困りなら専門家にご相談を
契約書は、法的なトラブルから自分や会社を守る「盾」であり、「信頼関係の証」ともいえる大切な書類です。しかし、法律的な知識や文書作成のノウハウがないまま作成するのは、リスクをともないます。
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契約書は、“後悔しないため”の大切な準備です。
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