契約はいつ成立するのか?民法の条文からわかりやすく解説

私たちの日常生活やビジネスの場面で頻繁に登場する「契約」。商品を購入する、アパートを借りる、仕事を依頼する――これらすべては契約行為です。しかし、「契約がいつ成立したのか?」という点について、明確に理解している方は意外と少ないのではないでしょうか。

今回は、日本の民法の条文を交えながら、「契約の成立時期」「契約書の必要性」、そして「契約の種類」についてもわかりやすく解説します。


契約の成立とは?

まず前提として、「契約の成立」とは何を意味するのでしょうか。

契約とは、当事者間の意思の合致(申込みと承諾)によって成立する法律行為です。つまり、ある人が「こうしたい」と申し込み、相手が「いいですよ」と承諾することで契約は成立します。

この基本的な考え方は、民法522条第1項に明記されています。

民法第522条第1項
契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示に対して相手方が承諾したときに成立する。

これが契約成立の大原則です。


契約成立のタイミング:申込みと承諾

契約は、**「申込み(オファー)」に対する「承諾(アクセプタンス)」**によって成立します。では、「承諾」はいつの時点で効力を持つのでしょうか?

これについて、民法では以下のように定められています。

民法第97条第1項
意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。

つまり、たとえばAさんが「この車を100万円で売りますよ」と申し込んだ場合、Bさんの「買います」という承諾の意思がAさんに到達した時点で契約が成立するということです。

これは「到達主義」と呼ばれる考え方で、郵便やメールで承諾を送った場合、相手に届いた時点で効力が生じます。


契約は口約束でも成立する?──諾成契約とは

「契約書を交わしていないから、契約は成立していない」と考える方も多いですが、実はこれは原則として誤解です。

契約の成立には契約書の有無は関係ありません。民法は、「書面による契約」を原則としているわけではなく、「意思の合致」があれば口頭でも契約は成立します。

このように、当事者の意思の合致だけで成立する契約を「諾成契約(だくせいけいやく)」といいます。たとえば売買契約や賃貸借契約、請負契約、雇用契約などは、すべて諾成契約です。

■ 諾成契約の具体例

  • 「このリンゴ100円で買うよ」「じゃあ売るね」→ 売買契約成立
  • 「来週、あなたに庭の剪定をお願いしたい」「いいですよ」→ 請負契約成立
  • 「部屋を1ヶ月5万円で借りたい」「OKです」→ 賃貸借契約成立

これらはいずれも口頭のやりとりだけで契約が成立しています。

ただし、後々のトラブル防止のためには、契約書など証拠となる書面を残しておくことが望ましいのは言うまでもありません。


要式契約:書面がなければ成立しない契約もある

ただし、すべての契約が諾成契約というわけではありません。中には、契約書など特定の「形式」がなければ契約が成立しない契約もあります。これを「要式契約」といいます。

■ 要式契約の特徴

要式契約では、法律で定められた方式(例:書面)を満たさなければ契約が成立しないため、口頭のやりとりだけでは法的効力が発生しません。

■ 代表的な要式契約

◆ 保証契約(民法第446条第2項)

民法第446条第2項
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。

保証契約とは、第三者が債務者の代わりに債務を履行することを約束する契約です。例えば、友人の借金の保証人になる場合など。この契約は、必ず書面で行う必要があり、口頭では無効となります。

◆ 農地の賃貸借契約(農地法第21条)

農地を貸す・借りる契約は、農地法の適用を受け、原則として農業委員会の許可が必要です。加えて、契約書などの書面を作成しなければ契約は無効とされる場合もあります。

このように、要式契約では単に当事者の意思が合致しているだけでは不十分で、法律が要求する方式(書面や許可など)を満たすことが不可欠です。


契約が成立しないケースとは?

以下のような場合は、契約は成立していません。

  • 承諾が申込みと異なる内容であった(新たな申込みとみなされる)
  • 承諾が申込みに遅れて到達した
  • 未成年者が契約し、法定代理人の同意を得ていなかった
  • 保証契約なのに書面がなかった(要式契約の不成立)
  • 農地の賃貸借契約で、所定の許可や書面作成をしていなかった

契約が成立していない場合、当然ながら法律上の効力も発生せず、相手方に義務の履行を求めることはできません。


まとめ:契約成立の「タイミング」と「形式」に注意しよう

契約の成立には、当事者の合意(意思表示)だけで足りる諾成契約と、書面など特別な形式が求められる要式契約があります。

✔ ポイントのおさらい

  • 契約は、原則として「申込み」と「承諾」で成立(民法522条)
  • 承諾の意思が相手方に到達した時点で効力が生じる(民法97条)
  • 売買・賃貸借などは「諾成契約」で、書面がなくても原則有効
  • 保証契約や農地の賃貸借契約などは「要式契約」で、書面などが必要
  • 契約の種類に応じて、成立要件を確認しておくことが大切

日常のちょっとした約束からビジネス契約まで、「契約」は私たちの暮らしに深く関わっています。形式にとらわれず、内容を明確にし、必要に応じて専門家のアドバイスを得ることで、安心・安全な取引を実現しましょう。

契約書の作成や内容チェックについても、お気軽に行政書士にご相談ください。