委任状を作成する際の注意事項と、委任者が複数の場合の対応方法

相続、役所の手続き、不動産取引などで「代理人にお願いしたい」という場面は少なくありません。そうしたときに必要になるのが「委任状」です。

しかし、委任状の書き方や取り扱い方を誤ると、手続きが受け付けられなかったり、思わぬトラブルにつながったりすることもあります。特に、委任者が複数いる場合の取り扱いについては、意外と見落とされがちです。

この記事では、委任状を作成する際の基本的な注意点と、委任者が複数いるケースの対応方法について、行政書士の視点から分かりやすく解説します。


委任状とは?

委任状とは、ある人(委任者)が別の人(受任者)に対して、特定の行為を代理で行うことを文書で明らかにするものです。よくある例としては、以下のようなものがあります:

  • 親が子どもに、役所で住民票を取得させる
  • 相続人の一人が他の相続人に手続きを委任する
  • 不動産取引において登記申請を司法書士に依頼する

手続きを正当に代理してもらうためには、適切に作成された委任状が必要になります。


委任状作成時の基本的な注意点

委任内容を明確に書く

「誰が誰に、何を任せるのか」をはっきり記載する必要があります。特に「何を任せるのか(委任事項)」については、曖昧な表現は避けましょう。

NG例:「手続きを一任します」
OK例:「〇〇市役所に対する住民票の写しの交付申請手続き」

委任事項が不明確だと、提出先の窓口で受理されないこともあるため、具体的に記載するのが基本です。


署名・捺印 または 記名・押印を正しく行う

委任状には、署名捺印、または記名押印を行う必要があります。この違いを理解しておきましょう。

◆ 署名・捺印とは

  • 署名とは、本人が自筆で自分の氏名を書くことを指します。
  • 捺印とは、その署名の近くに印鑑(通常は認印または実印)を押すことです。
  • 署名捺印は、「本人が間違いなく意思表示した」証拠として、最も信用度が高い方法です。

◆ 記名・押印とは

  • 記名とは、ゴム印やワープロで名前を印字することを含みます。
  • この場合、本人確認のために押印が必須です。
  • 署名に比べて信用度はやや劣るため、重要な手続きでは認められない場合もあります。

→ 実務上の原則

  • 委任状は、できる限り署名・捺印で作成するのが望ましいです。
  • 特に、不動産登記や相続手続き、金融機関での使用を想定する場合は、自筆署名+実印による捺印が基本です。

日付の記入を忘れずに

作成日を必ず記入しましょう。提出先によっては、「3か月以内に作成されたもの」でなければ受け付けないルールがある場合もあります。


本人確認書類の添付が必要なことも

多くの行政手続きや銀行での手続きでは、委任状だけでなく、委任者本人の本人確認書類(運転免許証など)の写しも提出が求められます。これにより、なりすましなどの不正を防止します。


ケース別の注意事項

● 行政手続きで使う場合

市区町村によっては委任状の指定様式があることがあります。提出先のホームページなどで事前に確認し、所定の書式があればそれに従いましょう。

● 相続に関する手続き

遺産分割協議や預貯金の解約などでは、相続人の一部が他の相続人に手続きを委任するケースがあります。

このとき、「遺産分割協議に関する一切の権限を委任する」という表現が一般的ですが、文言や書式の不備によって登記や金融機関の手続きが滞ることもあるため、細心の注意が必要です。


委任者が複数いる場合の対応方法

相続や共有不動産の手続きなどでは、委任者が複数人いるケースも珍しくありません。たとえば、相続人全員が一人の受任者に手続きを任せるような場合です。

このとき、よくある疑問が「委任者ごとに別々の委任状にしてもよいのか?」という点です。

➤ 回答:複数枚に分けて作成してもOK(ただし要注意)

委任者ごとに個別の委任状を作成し、それぞれが署名捺印(または記名押印)して提出する方法も、実務上は広く認められています。この場合、各委任状には「同じ受任者へ、同じ手続きを委任する」旨を明記し、提出時に一体として扱います。

ただし、以下の点に注意:

  • 内容(委任事項)は全員一致させること
  • 提出先がこの形式を認めているか、事前に確認すること
  • 印鑑証明書の添付や、指定書式の有無も機関によって異なる

■ 一枚に連名で署名・捺印する方法との違い

複数人の委任者が同じ委任状に連名で記載して自筆署名・捺印する方法は、よりシンプルで確実性が高い方法です。ただし、全員が一枚の紙に集まることが難しい場合は、個別委任状方式が実務的に使われます。


よくある質問(Q&A)

Q. 委任状は手書きでなければいけませんか?
A. ワープロ作成でも問題ありませんが、署名は本人が自筆で行うことが原則です。単なる記名の場合は、必ず押印も必要になります。

Q. 委任状の有効期限はありますか?
A. 明記がなければ無期限ですが、提出先によって「発行から3か月以内」などの制限がある場合もあります。

Q. 家族間でも委任状が必要ですか?
A. 原則、親子や配偶者であっても委任状が必要です。特に役所や銀行などでは、家族間であっても代理人による手続きには委任状の提出が求められます。


まとめ

委任状は、正しい手続きをスムーズに進めるための大切な書類です。
署名・捺印と記名・押印の違いを正しく理解し、提出先に応じた形式で作成することが重要です。
また、委任者が複数いる場合でも、きちんと手続きを整えれば、個別の委任状で対応することも可能です。

「この委任状で本当に大丈夫だろうか?」と少しでも不安な場合は、行政書士など専門家に相談することをおすすめします。