「遺書」と「遺言書」の違いとは?法律的効力と正しい使い分けを解説

「遺書」と「遺言書」という言葉は、ニュースやドラマでも耳にする機会が多く、混同されやすい用語です。どちらも「亡くなる方が残す文章」という点では共通していますが、法律的な意味や効力には大きな違いがあります。

本記事では、遺書と遺言書の違いをわかりやすく解説し、遺言書を準備する上での注意点も紹介します。


「遺書」とは?

一般的に「遺書」とは、亡くなる方が自分の思いや希望を文字にして残したものを指します。形式は自由であり、紙やメモ帳、手紙、さらにはスマートフォンに残されたメモでも「遺書」と呼ばれることがあります。

遺書の特徴

  • 法律で形式が決まっていない
  • 主に気持ちや思いを伝えるもの
  • 相続や財産分けに関する効力は原則として持たない

例えば、

  • 家族への感謝の気持ち
  • 今後の生活への励ましの言葉
  • 自分の死をどう受け止めてほしいか
    といった、亡くなる方の「心のメッセージ」が中心です。

つまり、遺書は「大切な人に気持ちを伝えるもの」であり、法律的な効力は基本的にありません。


「遺言書」とは?

一方の「遺言書」は、法律で定められた方式に従って作成された文書で、法的な効力を持つものです。

遺言書により、相続に関する希望を反映させたり、トラブルを未然に防ぐことができます。

遺言書の特徴

  • 民法で作成方法や効力が定められている
  • 相続人や受遺者に対して法的効力を持つ
  • 遺産分割や相続手続きに直接影響する

具体的には、次のようなことを遺言書で定められます。

  • 誰にどの財産を相続させるか
  • 相続人以外の人へ遺贈すること
  • 未成年の子どもの後見人を指定すること
  • 遺言執行者を指名すること

このように、遺言書は「相続に関する意思表示を確実に反映させるための文書」なのです。


遺書と遺言書の違いをまとめると?

遺書遺言書
法律上の位置づけ特に定めなし民法で定めあり
形式自由(手紙・メモ・動画など)厳格な方式が必要
主な内容感謝の言葉、想い、心情財産分与、遺贈、後見人指定など
法的効力原則なし法的効力あり

つまり、遺書=気持ちを伝えるもの、遺言書=法律的に効力を持つものという違いがあります。


「遺書に財産のことを書いたら有効?」

ここでよくある誤解が「遺書に財産の分け方を書けば、遺言書と同じ効力があるのでは?」というものです。

結論から言うと、遺書に財産分けを書いても、遺言書としての方式を満たしていなければ無効です。

例えば、ノートに「自宅は長男に、預金は長女に」と書いた場合でも、

  • 自筆証書遺言の要件(全文自筆、日付、署名押印など)を満たさなければ無効
  • 動画や音声に残しても遺言としては認められない
    ということになります。

ですから、「財産の分け方を決めたい」と考えている場合は、必ず法律に従った「遺言書」として作成する必要があります。


遺言書の種類

遺言書にはいくつかの方式があります。代表的なのは次の3つです。

  1. 自筆証書遺言
     自分で全文を書き、日付・署名押印をしたもの。比較的簡単に作成できます。
     ただし、方式不備があると無効になるリスクが高いです。
  2. 公正証書遺言
     公証役場で公証人が作成する遺言。証人が立ち会う必要がありますが、もっとも確実で安全な方法です。
  3. 秘密証書遺言
     内容を秘密にしたまま公証役場に預ける方式。利用は少なく、実務ではほとんど用いられていません。

最近では、自筆証書遺言を法務局で保管できる制度もでき、利便性が高まっています。


遺言書を残すメリット

遺言書を準備することで、次のようなメリットがあります。

  • 相続人同士のトラブルを防ぐ
  • 自分の希望どおりに財産を引き継げる
  • 相続手続きがスムーズになる
  • 配偶者や子どもへの生活保障を確保できる

一方で、遺書は気持ちを伝えるものなので、遺言書とセットで残すのがおすすめです。


まとめ

  • 遺書は「気持ちや思いを残すもの」で、形式は自由。ただし法的効力は基本的にない。
  • 遺言書は「法律に基づいて作るもの」で、相続や遺産分割に効力を持つ。
  • 財産の分け方を決めたい場合は、必ず「遺言書」を作成する必要がある。

つまり、大切な人へのメッセージは遺書で、財産や法律に関することは遺言書で――これが両者の正しい使い分けです。

相続をめぐるトラブルは、残された家族に大きな負担を与えます。思いを伝える遺書と、効力を持つ遺言書をうまく組み合わせることで、安心して未来を託すことができるでしょう。


遺言書の作成を検討されている方は、専門家(行政書士・弁護士・司法書士など)へ相談するのがおすすめです。