民事信託(家族信託)と商事信託はどう違う?メリット・デメリットまとめ

近年、相続や資産承継の方法として「民事信託(家族信託)」という言葉を耳にする機会が増えてきました。一方で「商事信託」という用語もあり、両者はどう違うのか混乱される方も少なくありません。
本記事では、民事信託(家族信託)と商事信託の違いを整理し、それぞれの特徴や利用場面についてわかりやすく解説します。


信託とは何か

まずは基本から確認しておきましょう。

「信託」とは、委託者(財産を持つ人)が受託者(信頼できる人や法人)に財産を託し、その財産を特定の目的のために管理・処分してもらい、その利益を受益者が受け取る仕組みをいいます。

  • 委託者:財産を託す人
  • 受託者:財産を託され管理・処分する人
  • 受益者:財産の利益を受ける人

この三者の関係によって信託は成り立っています。


民事信託(家族信託)とは

定義

「民事信託」とは、営利を目的とせず、主に家族や親族の間で行われる信託を指します。特に相続や認知症対策として利用されるケースが多いため「家族信託」と呼ばれることもあります。

目的

民事信託の最大の目的は、財産を柔軟に承継させることです。
例えば、

  • 認知症になった場合の財産管理
  • 二世代、三世代先まで財産の承継先を指定する
  • 遺言書では難しい柔軟な財産分配

といった場面で活用されます。

特徴

  • 非営利:受託者(多くは家族)が報酬を得ることを目的としていない
  • 自由度が高い:民法や信託法の範囲でオーダーメイドの設計が可能
  • 相続対策に有効:遺言や成年後見制度では対応できない柔軟な仕組み

商事信託とは

定義

「商事信託」とは、信託業法に基づき、営利を目的として信託を業として行うものをいいます。信託銀行や信託会社などの専門業者が取り扱います。

目的

商事信託の目的は、顧客から信託財産を受託し、プロの管理運用によって利益を生み出すことです。

例えば、

  • 投資信託
  • 年金信託
  • 不動産管理信託
    などが典型です。

特徴

  • 営利目的:信託会社・信託銀行などが業務として行う
  • 専門性の高さ:金融商品や不動産運用などプロが管理
  • 信託業法の規制:登録・許可が必要であり、個人は原則として行えない

民事信託(家族信託)と商事信託の違い

ここで両者の違いを整理してみましょう。

項目民事信託(家族信託)商事信託
主な担い手家族や親族など個人信託銀行・信託会社
目的財産管理・承継、相続対策投資・資産運用など営利
利益原則無報酬(非営利)手数料や運用益を目的とする
規制信託法信託法+信託業法
主な利用場面認知症対策、相続承継投資信託、不動産信託、年金信託

利用場面の違い

民事信託(家族信託)の利用場面

  • 親が高齢で財産管理が心配
  • 障がいのある子の生活を長期的に支援したい
  • 二次相続、三次相続まで承継先を決めておきたい

商事信託の利用場面

  • 資産運用をプロに任せたい
  • 退職金を年金として受け取りたい
  • 不動産を信託して収益管理をしたい

メリット・デメリット

民事信託(家族信託)

  • メリット
    • 自由度が高く、相続対策に柔軟
    • 成年後見制度の代替として利用可能
  • デメリット
    • 専門家の設計が必要で複雑になりやすい
    • 信託銀行のように高度な運用はできない

商事信託

  • メリット
    • プロによる安全かつ効率的な財産管理
    • 多様な金融商品への投資が可能
  • デメリット
    • 手数料やコストが発生する
    • 個人のきめ細やかな希望には対応しにくい

まとめ

民事信託(家族信託)と商事信託は、同じ「信託」という仕組みを利用しながらも、その目的や担い手、利用場面は大きく異なります。

  • 民事信託(家族信託)は、家族間で財産管理や相続をスムーズに行うための非営利の仕組み。
  • 商事信託は、金融機関が営利を目的に資産運用や管理を行う仕組み。

ご自身やご家族の状況に応じて、どちらを活用するのが適しているかを考えることが大切です。相続や財産管理に不安を感じたら、行政書士や専門家へ早めに相談することをおすすめします。