借金も相続されるって本当?相続放棄の正しいやり方とは

「親が借金を残して亡くなったら、その借金はどうなるの?」
相続と聞くと、多くの人が「遺産がもらえる」と考えがちですが、実際にはプラスの財産だけでなく、マイナスの財産――つまり借金や未払い金も相続の対象になります。

この記事では、相続における借金の扱いと、相続放棄の正しいやり方、さらに実際によくあるケースについて詳しく解説します。


借金も相続されるのか?

民法896条により、相続は「被相続人(亡くなった人)の一切の権利義務を承継する」と定められています。
つまり、現金や不動産といったプラスの財産だけでなく、借金やローン、連帯保証債務などのマイナスの財産も一緒に引き継ぐことになります。

実際の例

  • 父が住宅ローンの残債1,500万円を抱えたまま亡くなった → 子がローンを相続
  • 母がクレジットカードのキャッシングで300万円の負債を残していた → 相続人に請求が届く
  • 叔父が知人の借金の連帯保証人になっていた → 相続人が保証債務を負う

このように、思いがけない借金まで引き継ぐ可能性があるため、相続は慎重な判断が必要なのです。


相続の選択肢は3つ

相続人は「相続開始を知った日から3か月以内」に、次のいずれかを選ぶことができます。

  1. 単純承認
     プラスもマイナスもすべて引き継ぐ。何もしなければ自動的にこれになる。
  2. 限定承認
     プラスの財産の範囲で借金を清算。借金が多くても超過分は支払わなくてよい。ただし相続人全員の同意が必要で、実務的には利用が少ない。
  3. 相続放棄
     最初から相続人でなかったことにする。プラスもマイナスも一切引き継がない。借金が多い場合の代表的な方法。

相続放棄の正しいやり方

相続放棄をするためには、家庭裁判所での手続きが必須です。

手続きの流れ

  1. 財産調査
     通帳や登記簿、借入先の通知などから財産を調査します。
  2. 申述書の作成
     家庭裁判所の書式を利用して「相続放棄申述書」を作成します。
  3. 必要書類の準備
     - 被相続人の住民票除票や戸籍附票
     - 相続人の戸籍謄本
     - 収入印紙800円
     - 郵便切手(裁判所指定額)
  4. 家庭裁判所へ申立て
     被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所に提出します。
  5. 裁判所の照会
     「本当に放棄する意思があるか」を確認するため、書面での照会や追加書類の提出が求められることがあります。
  6. 受理通知
     手続きが認められると「相続放棄申述受理通知書」が届きます。これで放棄が完了です。

相続放棄の期限と例外

相続放棄は原則として「相続開始を知ったときから3か月以内」にしなければなりません。
この期間を「熟慮期間」と呼びます。

ただし、次のようなケースでは期間の伸長が認められることもあります。

  • 借金の存在に長期間気づかなかった
  • 遠方に住んでいて財産調査に時間を要した
  • 複雑な相続関係で判断に時間がかかった

ただし「知らなかった」と言うだけでは認められません。借金が発覚した時点で速やかに動くことが大切です。


相続放棄をしたらどうなる?

相続放棄をすると、最初から相続人でなかったことになります。

  • 借金を支払う義務はなくなる
  • 預金や不動産などのプラスの財産も一切受け取れない
  • 相続権は次順位の相続人へ移る(子→親→兄弟姉妹)

さらに、兄弟姉妹が亡くなっている場合、姪や甥に相続権が移る可能性もあるので、親族間で情報共有しながら相続放棄をする必要があります。

よくある誤解と失敗例

1. 口約束の「放棄」は無効

親族同士で「私は相続しない」と言っても、それは家庭裁判所での相続放棄とは別物です。遺産分割協議で「取り分ゼロ」にすることはできますが、借金からは逃れられません。

2. 財産を処分してしまった

亡くなった人の預金を引き出して使ったり、不動産を売却したりすると、相続を承認したとみなされ、放棄できなくなることがあります。

3. 3か月を過ぎてしまった

期限を過ぎてしまい、やむを得ない事情がない限り、放棄は認められません。借金の督促状が届いてから慌てるケースも多いので要注意です。


Q&A:相続放棄でよくある質問

Q1. 相続放棄をすると戸籍に記録されるの?
→ 戸籍に直接は記録されませんが、家庭裁判所に申述した事実は公的に残ります。

Q2. 子どもが未成年でも相続放棄できる?
→ 未成年者が相続放棄をする場合、親権者が代理して手続きを行います。ただし親権者が同時に相続人であるときは「特別代理人」の選任が必要です。

Q3. 相続放棄と限定承認の違いは?
→ 相続放棄はすべて放棄、限定承認はプラスの範囲でマイナスを精算する仕組みです。借金が多い場合は放棄、プラス財産を残したい場合は限定承認を検討します。


まとめ

相続は、プラスの財産だけでなく借金などのマイナスの財産も引き継ぐ仕組みです。
借金が多いときには「相続放棄」という方法で責任を免れることができますが、家庭裁判所での正式な手続きが必要であり、3か月という期限があることを忘れてはいけません。

「借金があるかどうかわからない」「期限に間に合うか不安」というときには、専門家に早めに相談することが安心につながります。当事務所では、相続放棄のサポートや戸籍調査、必要書類の収集などもお手伝いしています。お気軽にご相談ください。