親が長年営んできたアパートの賃貸経営を、将来的に子供へ引き継がせたいと考える方は少なくありません。安定した家賃収入は魅力的ですが、引き継ぎの方法を誤ると、思わぬ税負担やトラブルを招くこともあります。今回は「アパートの賃貸経営を子供に引き継ぐ上での注意点」について解説します。
引き継ぎ方は「相続」と「生前贈与」の2種類
アパートを子供に承継させる方法には、大きく分けて相続と生前贈与があります。
- 相続の場合
親の死後にアパートを相続財産として子供が取得します。遺産分割協議や遺言書の有無によって分け方が変わります。相続税の課税対象となるため、事前の資産評価と節税対策が重要です。 - 生前贈与の場合
親が生存中にアパートや持分を子供へ贈与する方法です。贈与税がかかる可能性が高いですが、毎年110万円までの基礎控除や「相続時精算課税制度」を活用することで、将来の相続税負担を軽減できるケースもあります。
いずれにしても、税負担と手続きのしやすさのバランスを考えて選ぶことが大切です。
アパートの「名義変更」と金融機関の対応
アパート経営では、建物や土地の名義を子供に移す必要があります。相続登記や贈与登記を行うことで正式に権利移転が完了します。
ただし、注意が必要なのは金融機関からの借入金です。アパート経営に融資を受けている場合、オーナーの交代に伴って金融機関の同意や保証人の変更が必要となることがあります。
銀行は「後継者の経営能力」「収入や信用力」を重視するため、子供が融資を引き継げるかどうか事前に確認しておくことが欠かせません。
相続税・贈与税の負担を把握する
アパートの引き継ぎで最も大きな問題は税金です。
- 相続税
アパートは「建物」と「土地」で評価されます。建物は固定資産税評価額、土地は路線価などで算定されますが、貸家建付地として評価額が下がるケースもあります。賃貸経営は一定の節税効果が期待できる一方で、複数の子供が相続する場合には分割が難しい点も課題です。 - 贈与税
高額なアパートを一括で贈与すると、贈与税が非常に重くなる可能性があります。暦年贈与や相続時精算課税を活用して計画的に進めることが必要です。
税金の試算は必ず税理士など専門家に依頼してシミュレーションを行いましょう。
管理体制の引き継ぎ
賃貸経営は、ただ建物を所有しているだけでは成り立ちません。
- 入居者募集・契約手続き
- 家賃の回収・滞納対応
- 建物の修繕やリフォーム
- 苦情やトラブル対応
これらを親が一人で担っていた場合、子供が突然引き継ぐと大きな負担になります。
管理会社を利用している場合は、契約名義を後継者へ移す手続きが必要です。もし自主管理している場合は、早めに管理を分担したり、子供に少しずつ業務を経験させておくとスムーズです。
兄弟間のトラブル防止のために
アパートを子供に引き継ぐ際には、兄弟間での公平性も大切です。
アパートは分割が難しいため、「長男が不動産を相続、次男は現金を相続」といった形にしないと、不満が生じやすくなります。遺言書や家族信託を利用することで、スムーズに承継させることができます。
遺言書がない場合、法定相続分に従って遺産分割協議を行うことになりますが、意見がまとまらず長期化することもあります。トラブルを避けるためにも、親の意思を明確に残しておくことが重要です。
後継者の「経営意欲」と「適性」を確認する
子供が必ずしもアパート経営に向いているとは限りません。
- 不動産や賃貸経営に関心がない
- 他の仕事が忙しく、管理に時間を割けない
- 金融機関との関係構築が苦手
このような場合、相続しても経営がうまくいかず、空室や赤字が続くリスクもあります。
子供が経営に消極的であれば、売却して現金化して分ける選択肢も考えられます。親の思いだけでなく、子供の意向や将来設計も尊重することが必要です。
老朽化アパートの建て替え・大規模修繕への備え
アパートは時間の経過とともに老朽化していきます。引き継いだ子供が直面する大きな課題の一つが、建物の修繕や建て替えの必要性です。
- 大規模修繕の必要性
築20年を超えると、外壁塗装・防水工事・給排水設備の交換などが必要になるケースが増えます。これらを怠ると雨漏りや設備不良が発生し、入居者の退去や空室増加につながります。 - 建て替えの検討
築40年以上の木造アパートなどでは、修繕費が膨大になる場合や耐震性に問題がある場合があります。その際には建て替えを検討することになります。ただし、建て替えには多額の資金が必要で、入居者の立ち退き交渉や新築期間中の収入減少といった課題もあります。 - 資金計画の重要性
修繕や建て替えは数百万円から数千万円単位の支出になることが多いため、金融機関からの融資や自己資金の準備が不可欠です。後継者に承継させる前に、長期的な修繕計画を立てておくことが望ましいでしょう。
子供に引き継がせる際には、「建物を今後どう維持・再生していくのか」という中長期的な視点が欠かせません。
専門家のサポートを活用する
アパートの承継は、法律・税務・不動産実務が複雑に絡み合う領域です。
- 登記 → 司法書士
- 税金 → 税理士
- 遺言や信託の設計 → 弁護士・行政書士
- 融資・資金繰り → 金融機関・FP
こうした専門家に早めに相談することで、余計なトラブルや税負担を避けることができます。
まとめ
アパートの賃貸経営を子供に引き継ぐ際には、
- 相続か生前贈与かを検討する
- 名義変更と融資の引き継ぎを確認する
- 相続税・贈与税の試算を行う
- 管理体制を整備する
- 兄弟間トラブルを防ぐため遺言書や家族信託を活用する
- 子供の意欲と適性を確認する
- 老朽化したアパートの建て替え・大規模修繕の備えをする
- 専門家と連携する
といった準備が必要です。
アパート経営は「不労所得」と思われがちですが、実際には手間もリスクも伴います。親から子へスムーズに承継させるためには、早めの計画と準備が欠かせません。
アパート承継や相続に関するご相談は、行政書士など専門家にご相談ください。お一人おひとりの状況に合わせた最適なアドバイスをご提供いたします。





