自筆証書遺言書は、遺言者が自身で作成する遺言の一種であり、費用を抑えながらプライバシーを確保できる点が魅力です。しかし、形式や内容に不備があると無効になってしまうリスクもあります。ここでは、自筆証書遺言書のメリットとデメリット、さらに作成する際の注意点について説明します。
自筆証書遺言書のメリット
- 手軽に作成できる:自筆証書遺言書は、特別な手続きを要さず、遺言者が自宅で手書きすることで作成できます。公証役場を通さなくてもよく、時間や費用の節約が可能です。したがって、思い立ったときにすぐに作成でき、緊急時にも対応しやすいのが大きなメリットです。
- プライバシーが守られる:自筆証書遺言書は、公証人や証人が関与しないため、遺言の内容が他人に知られることがありません。遺言内容を家族や第三者に明かしたくない場合でも、秘密裏に作成・保管できるため、プライバシーを重視する方に適しています。
- 費用がかからない:公正証書遺言と異なり、自筆証書遺言書には作成に関する費用が発生しません。遺言者自身が紙とペンを用意するだけで作成可能なため、特に費用を抑えたいと考える方にとって負担が少なく、財産が少額の場合にも適した方法です。
自筆証書遺言書のデメリット
- 無効になるリスクがある:自筆証書遺言書には厳格な形式的要件が定められています。例えば、遺言の内容全てを遺言者本人が手書きする必要があり、財産目録以外はパソコンやワープロでの作成は認められていません。また、署名や押印がない場合、あるいは日付が不明瞭な場合は無効になる可能性が高いため、形式面での不備がないよう慎重に作成する必要があります。
- 紛失・改ざんのリスク:自筆証書遺言書は保管場所が明確でないと、遺言者の死後に見つからない、あるいは第三者によって改ざんされる恐れがあります。特に、家庭内の保管ではこのリスクが高いため、適切な保管場所や法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用することが推奨されます。
- 検認手続きが必要:自筆証書遺言書を使用する際には、家庭裁判所で「検認手続き」を受ける必要があります。この手続きには時間と費用がかかるため、相続開始後に速やかな分割を望む場合には、不便さを感じることもあります。一方、公正証書遺言の場合、検認が不要であるため、スムーズに遺言内容が実行できます。
自筆証書遺言書を書く上での注意点
- 全文を自筆で書くこと:自筆証書遺言書では、遺言者本人が財産目録を除く全ての内容を手書きで書くことが義務付けられています。署名、日付、押印も必須であり、押印は認印でも可能ですが、実印を使うことで信頼性が増します。形式的な不備があると遺言書全体が無効となるため、全てを自筆で記載する点には特に注意が必要です。
- 日付は明確に記載する:遺言書の日付は「2024年11月15日」のように、具体的な日付を正確に記載する必要があります。日付が曖昧だったり、年月日のいずれかが欠けていたりすると無効となるリスクがあるため、「令和〇年〇月〇日」のようにわかりやすく書きましょう。
- 財産の分配内容を明確にする:遺言書に記載する財産の分配内容は、具体的かつ明確に記すことが重要です。例えば「すべての財産を妻に」などの曖昧な記載は避け、「〇〇銀行の口座にある預金を長男に」「自宅の不動産を妻に」といったように、財産ごとに分けて明確に記述します。相続人間でのトラブルを避けるためにも、詳細な情報を含めた財産の記載が推奨されます。
- 相続人が分かるように記載する:相続人が誰であるかを特定できるよう、氏名や続柄だけでなく、場合によっては住所も明記することが望ましいです。誤解や争いを避けるために、家族構成や関係性に関する詳細な情報を加えることで、相続の過程がスムーズになります。
- 訂正には正しい手続きを行う:自筆証書遺言書を訂正する際には、訂正箇所に二重線を引き、訂正箇所の近くに署名と押印を行い、訂正内容を記載する必要があります。これを怠ると無効とされる可能性があるため、訂正には特に慎重に手続きを行いましょう。
- 遺言執行者の指定:遺言執行者を指定することで、遺言の内容を確実に実行する体制が整います。遺言執行者には、財産分配の実行責任があるため、信頼できる人物を選定しましょう。特に、複数の相続人が関わる場合には、遺言執行者の存在がスムーズな相続手続きをサポートします。
- 保管方法についての配慮:自筆証書遺言書の保管場所については慎重に考える必要があります。遺言書が発見されなければ無効になり、また紛失や破損のリスクもあります。近年では、法務局が提供する「自筆証書遺言書保管制度」を利用することで、紛失のリスクを防ぎ、遺言内容が相続開始時にすぐ確認できるため便利です。
まとめ
自筆証書遺言書には、手軽で費用がかからず、プライバシーが守られるというメリットがある一方、形式に関する厳格な要件や紛失・改ざんのリスク、検認の必要性などのデメリットもあります。重要な遺産分割を確実に行うためには、適切な内容や保管方法を確認し、場合によっては専門家に相談することも大切です。自筆証書遺言書の活用には、これらのポイントを踏まえた慎重な判断が必要です