
相続によって取得した土地や建物は、そのまま保有するか、売却するかで相続人の今後の生活に大きな影響を与えます。特に近年は「空き家問題」が社会的な課題となっており、使わない土地や建物を相続した方からは「できるだけ早く売却したい」という相談が増えています。
このとき、知っておきたいのが「相続した土地を3年以内に売却した場合の特例」です。一定の要件を満たすと、譲渡所得税の計算上で大きなメリットが受けられる可能性があります。本記事では、この特例の概要と注意点を分かりやすく解説します。
相続した土地を売却すると課税される?
土地や建物を売却した場合、その売却益(譲渡所得)に対して譲渡所得税(所得税+住民税)が課されます。
譲渡所得の計算式は以下の通りです。
譲渡所得 = 譲渡価額(売却価格)- 取得費(購入費用や相続税評価等)- 譲渡費用(仲介手数料など)
相続で取得した土地の場合、被相続人が購入したときの取得費を引き継ぐのが原則です。しかし、古い時期に購入された場合は資料が残っていないことも多く、その場合は概算取得費(譲渡価額の5%)で計算され、思った以上に課税額が大きくなることもあります。
そこで、相続税を負担した人が土地を売却する場合に利用できるのが「相続税額の取得費加算の特例」です。
「相続税額の取得費加算の特例」とは?
この特例は、相続により財産を取得した人が、その財産を一定期間内に売却した場合に、支払った相続税額の一部を取得費に加算できるというものです。
趣旨
相続税と譲渡所得税が二重に課税される不公平を調整するために設けられた制度です。
適用条件
- 相続または遺贈により取得した土地・建物を譲渡した場合
- 譲渡が相続開始の翌日から3年10か月以内に行われること
- 相続税を実際に納付していること(相続税がゼロの人は対象外)
つまり、実際に相続税を負担した人が対象で、相続税の納付がなかった相続人にはメリットはありません。
加算できる金額
「その譲渡した財産に対応する相続税額」が取得費に加算されます。
実際には、相続税の課税価格に占める当該財産の割合を計算し、その割合に応じた相続税額を按分して計算します。
適用を受けるとどうなる?(具体例)
例えば、以下のケースを考えてみましょう。
- 相続人Aが土地を相続
- 相続税として1,000万円を納付
- その土地を相続から2年後に5,000万円で売却
- 被相続人の取得費は不明 → 概算取得費(5%=250万円)を適用
この場合、特例を使わないと:
譲渡所得 = 5,000万円 - 250万円 = 4,750万円
課税対象額が非常に大きくなってしまいます。
しかし「相続税額の取得費加算の特例」を使うと、相続税1,000万円の一部を取得費に加算できるため:
譲渡所得 = 5,000万円 - 250万円 - 1,000万円(加算される相続税額)
= 3,750万円
となり、譲渡所得税の大幅な軽減が可能になります。
特例の手続き方法
この特例を受けるためには、確定申告での手続きが必要です。
必要な主な書類
- 譲渡所得の確定申告書
- 相続税申告書の写し
- 相続税の納付額を証明できる書類(納税証明書など)
※不動産の売却に関する資料(売買契約書、仲介手数料の領収書など)も添付が求められます。
「空き家の3,000万円特別控除」との違い
よく混同されやすい制度として「被相続人の居住用財産(空き家)を売却した場合の3,000万円特別控除」があります。
- 「相続税額の取得費加算」 → 相続税を納めた人が対象
- 「空き家3,000万円控除」 → 相続税の有無に関係なく、一定の条件を満たす空き家を売却した場合に適用
両方の特例を同時に使える場合もあります。実際には計算の順序や控除の重なり方に注意が必要です。
注意点
- 期間制限に注意
「相続開始の翌日から3年10か月以内」という期限を過ぎると、特例は受けられません。 - 相続税の申告内容が基礎になる
相続税の課税価格に応じて計算されるため、相続税申告書をきちんと保管しておくことが大切です。 - 税務署への説明責任
計算が複雑になることが多く、誤った申告をすると後で修正が必要になる場合もあります。
まとめ
相続した土地を売却する際には、相続税と譲渡所得税の二重課税を調整するための「相続税額の取得費加算の特例」が用意されています。
- 相続税を実際に納付した人が対象
- 相続開始の翌日から3年10か月以内の売却が条件
- 相続税額の一部を取得費に加算できるため、譲渡所得税が軽減される
相続した土地を売却する際は、期限や手続きに注意し、税理士等の専門家に早めに相談することをおすすめします。特例を上手に活用すれば、余計な税負担を避けられる可能性があります。
当事務所では、相続土地の売却に関するご相談や、特例適用のための資料整理をサポートしています。
「相続した土地をどうにかしたい」という方は、お気軽にご相談ください。