
外国人が日本で起業・経営を行う際に必要となる在留資格「経営・管理」。現在の制度では、「資本金500万円以上または常勤職員2名以上を雇用」という基準が適用されています 。ところが、2025年10月以降、これらの要件の大幅強化が報じられています。
報道や士業による情報によると、資本金要件が「3000万円以上」に引き上げられ、さらに常勤職員の雇用、経営経験・学歴、事業計画書に関する専門家評価など、新たな要件が追加される見通しです 。施行は2025年10月中旬を目標とされています 。
現行制度のポイント
現在の在留資格「経営・管理」の取得にあたっての主な要件は次のとおりです:
- 資本金500万円以上(株式会社での資本金、合同会社での出資総額)
- または 常勤職員2名以上 の雇用
加えて、事業所の確保(物理的なオフィスが必要)、事業計画の実現可能性、申請者が経営に主体的に従事することなど、審査では実態重視の視点もあります。
この制度により幅広い外国人起業家の挑戦が促されてきましたが、形だけの「なりすまし」に対する懸念も増えてきました。
改正の背景と目的
なぜ、日本政府は資本金要件の6倍への引き上げを検討しているのでしょうか。その背景には、以下のような理由があります。
ペーパーカンパニーへの対策強化
現行制度では、資本金やオフィスの形式だけで基準を満たし、不実な事業でビザを得るケースが多数指摘されています。例えば東京入国管理局が2023年に調査した300件のうち、9割が事業実態が不十分と判断され、不許可になったという報道もあります。
この問題を是正するため、制度の審査要件を実質重視に見直す必要性が高まっています。
国際水準への整合
他国と比べて、日本の500万円という基準は低いとされており、「簡単に取得できる投資系ビザ」との批判がありました 。韓国では約3000万円、シンガポールでは1000万円前後の投資が必要とされており、日本だけ明らかに低すぎたとの指摘です。
社会負担と地域経済のバランス
少額・実態の薄い外国人経営者が増え、公教育や多文化共生の現場において過剰な公的リソースが使われる懸念もあります。そのため、一定以上の資本や実務能力を持つ起業者に絞る方向にシフトしていると考えられます。
改正の具体内容(見直し案)
以下は、現行制度と見直し検討内容の比較表です。
項目 | 現行制度 | 見直し案(2025年10月中旬〜) |
---|---|---|
資本金要件 | 500万円以上または常勤職員2名以上 | 3000万円以上 + 常勤職員1名以上 を両方必須化 |
雇用要件 | 500万円か職員2名のどちらか | 資本金と雇用の両方を満たす必要あり |
経営者の能力 | 特に明文化された基準なし | 経営経験3年以上 または 修士・博士取得などの学歴 必須 |
事業計画書 | 自主作成で可 | 中小企業診断士等専門家の評価付き事業計画書が必須 |
施行時期 | — | 2025年10月中旬開始予定/パブリックコメントは意見募集中(9月24日まで) |
影響と懸念される課題
この改正案によって、以下のような影響が予想されます。
小規模起業への高いハードル
飲食店や貿易業といった、資本金500万円で十分だった小規模起業を目指す外国人にとって、3000万円のハードルは非常に重く、多くが挑戦をあきらめざるを得ない状況になるでしょう。
地方の多様な起業機会の萎縮
地方都市において、外国人起業家による地域活性化や多文化協働の事例が数多くありますが、資本要件の高騰によってこうした取り組み自体が難しくなる懸念もあります。
富裕層投資家限定化の懸念
資本力のある富裕層や投資家層には参入しやすい一方、そうでない起業希望者の道が閉ざされる可能性もあるため、多様性の喪失が危惧されます。
いま急増している「駆け込み申請」
改正施行前の申請を希望する外国人や支援者は「駆け込み申請」を検討するケースが増えています。
ただし、以下の点には注意が必要です:
- 申請書類の正確性・十分性:慌てて申請すると、書類不備や審査での不利リスクが高まります。
- 行政書士など専門家による助言:法令改正前でも、万全な準備と戦略が不可欠です。
結び:今後の注視ポイントと対応策
制度改正の方向性を見ると、日本は「実態のある起業・経営者」を受け入れる方針にシフトしており、制度の質向上が明確に打ち出されています。一方で、多様な起業希望者への配慮が必要だとの声も根強くあります。
今後注視すべき点:
- パブリックコメントの内容(2025年9月24日締切)により、どこまで要件に柔軟性が加わるか。
- 地方自治体が独自に設ける優遇制度や支援枠(資本や経験に応じた例外措置など)が注目される可能性あり。
起業希望者ができる対策:
- 改正前の申請を計画する:資本金500万円の枠内で可能な申請計画を進めましょう。
- 起業計画・資金面・人員体制を見直す:改正後に備え、資本金や雇用の整備、計画の専門家相談などの準備を。
- 専門家への相談を早めに:行政書士や弁護士と連携し、最新の制度動向を踏まえたプランを策定しましょう。
まとめ
在留資格「経営・管理」の資本金要件が、500万円から3000万円へ6倍に引き上げられる見通しが浮上しており、さらに雇用、経験・学歴、専門家評価などの要件追加も検討されています。これは制度の信頼性向上や悪用抑止を目的としていますが、小規模起業や地方起業には大きな壁となる可能性もあります。
2025年10月中旬の施行に備えて、現在の制度を有効活用した申請準備を進めつつ、最新情報のキャッチアップと専門家との協働が今、より重要となっています。